結局どっちなのさ?

昔の記事で「ベクトルは矢印か否か」の話を取り上げました。あのときは「矢印じゃない」という方向に話を持っていっていましたが、あのあといろいろな方と議論していくなかで、ちょっとずつワタクシ自身の見方が変わってきたので新しく記事を書こうと思います。

結論としては「矢印か矢印じゃないか、そんなの人による」です。もっと言うと

矢印か矢印じゃないかを考えることがそもそも無意味

といった具合です。一番「逃げ」と思われちゃう回答ですが仕方ないです。というのも

ベクトルはあまりに汎用性が高すぎるため、使う場面によって矢印になったり矢印じゃなくなったり、姿形を大きく変えてしまう

ということです。能書きばかり言っててもしょうがないので具体例を見ていきます。

・(古典)力学

投球のモデル

力学は、大雑把に言ってしまえば「我々の目に見える範囲の現象を扱う理論」です。そこで登場する「速度」や「力」などの主要な量は、3次元空間における「向き」と「大きさ」をもった矢印」です。というより「矢印と考えたほうがすんなり受け入れやすい」です。

・(古典)電磁気学

電磁気
電磁気学はその名のとおり電気と磁気を扱うのですが、「電界」「磁界」「電流」もやっぱり「矢印」です。電磁気学ではあの難解な?「ベクトル解析」という、力学よりもっと高級な数学(矢印いじり)を駆使します(多くの学生は苦死します)。

・量子力学(行列力学)

上記のように、「矢印」としてのベクトルが大活躍するシーンは多々あります。でもあの量子力学では何やら、電子などの状態「(固有)ベクトル」で表され、その次元は3どころでなく10次元や無限次元だったりします!! 

水素原子
上のイラストはなんとなーくのイメージです。3次元以上の「矢印でないベクトル」をうまく図示するのは難しいです。


・多変量解析

物理はもちろん、このブログで以前取り上げた「多変量解析」においても、ベクトルは矢印ではありません。

パリーグPCAローディング
パリーグPCAスコア

以前の記事で取り上げたパリーグ打者成績の「総合指標」です。この「重みづけ」は数学的には「固有ベクトル」に対応します。

教え方のせい?

「ベクトル」はそもそも「数が複数並んでいるもの」全般を指す言葉です。縛りがほとんどないメチャクチャ一般的なもので、汎用性が極めて高いため扱う対象によってどうとでも形を変えてしまうのです。ただその成分の数が3以下の場合、幸か不幸か?グラフに表わせてしまうので「矢印」という特殊な解釈が機能するわけです。

こういう事態はベクトルに限らず、高度に抽象化された概念あるある、といえます。屁理屈を言うと、そのベクトルのさらに根本概念である「数」は場面によって、リンゴの「実体」になったり(リンゴ1個2個・・)、「x」「y」「N」などの文字になったり、グラフ上の直線や曲線になったり、パリーグの年棒査定指標?になったりします。そもそも「数」が誕生したきっかけはリラのハーモニー(つまり「音階」)だし、「矢印/矢印でない」をはるかに超えたレベルで姿形を変えます。

「言葉」と同じです(数学は科学の言葉だ、という人もいます)。汎用性の高い言葉ほど、同じフレーズ・イントネーションでも文脈によって意味が全然違ってきます(余談ですが、日本は「識字率」はほぼ100%近いと思いますが「識意率」は50%もないのでは?と、とくにTwitterなどをしていると思います)。ベクトルが場面に応じて矢印になったり矢印でなくなることは、まさにベクトルの汎用性の高さを示しているのです。

「数」を最初に習うのは小学生かと思いますが、そこで「数はリンゴです」なんて習わないですよね。数はリンゴでもありリンゴでもないわけで、最初に役割を限定する必要はないわけです。

ただ「ベクトル」に関しては高2あたりで初登場するわけですが、その登場時に「矢印」のインパクトが強すぎて、さらに知識人ぶりたいイキリ野郎が「みんなのベクトルを合わせて」とかあっちこっちでほざくせいで「ベクトル=矢印」っていうイメージが多くの人に定着してしまっているように思います。間違いではありませんが一面しか見ていないことになります。

そのせいで、本来議論する必要すらないはずの「ベクトルは矢印か否か」という議論が沸いてしまうのです。本質的には「数はリンゴか否か」と同じです。

そういう土壌の上に、健気な高校生・大学生にはこの仕打ちが待っています。

高校数学「ベクトルは矢印やで~」
線形代数「矢印ちゃうで~」
大学力学「すまんやっぱ矢印やったわ」
電磁気学「せやせや、矢印や」
量子力学「なんでや矢印ちゃう言うたやろボケ!」
多変量解析「皆さんにぎやかでよろしいこと。ほんまは矢印ちゃいますけど、好きにしたらええんとちゃいますか~」


最初の高校数学の段階で「ベクトルは非常に汎用性の高いツールなので、場面に応じて姿形を変えます。今は矢印としたほうがイメージしやすいのでそれで行きます」と断ってくれれば混乱を防げるのでは?と思っています。それはそれで高校生が混乱しますかね?
古くて新しい、難しいテーマです。なかなか結論は出ませんが、また考えましょう。ではまた!



はっぴぃ理系らいふ、いぇい
ヽ(・ε・)人(・ε・)ノ キミモナカマニナロウゼ
   

【文責 べじぱみゅ】