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どのくらい「跳ねる」か

さて、今日のテーマはデッドボールのボールの跳ね具合です。
さっきの「運動量保存則」でこの問題を解こう!と行きたいところですが、残念ながらこれだけでは解けません。
今回の状況では、衝突後のボールの速度v1と、バッターが吹っ飛ばされる速度v22つを求めなければなりません。
(実際にはバッターはあんまり吹っ飛ばされませんが、それはおいおい)
しかし「運動量保存則」という「縛り」ひとつだけでは、この2つの未知数が決まりません。

このことこそが、今回の「重症度判定」に直結する話です!

高校物理の教科書では、こういう話のときに「反発係数」という話が出てきます。
要は「衝突前後で、2つのモノが互いに近づく速さと遠ざかる速さの比」です。
今回で言うと「互いに近づく速さ」はもとのvで、「互いに遠ざかる速さ」はv2-v1です。
というわけで、反発係数eはこんな感じになります。

反発係数

これが1に近いほど「よく跳ねる」ことを意味し、0だと全く跳ねずに「くっついちゃう」ことを意味します。
ちなみにeは1より大きくなることはありません。外から何かしない限り。

この「e」の正体は後程お話するのでしばらくお待ちください。
とりあえず何らかの方法でこの「跳ね具合」eが決まったとすると、

衝突後の速度


と、2つの速度が求められます。
(この状況はだいたいどんな問題集にもあるので、式いじりはそちらをご参照ください)

一応マジメに解きましたが、実際はm<<Mです。なので

v1≒-ev
v2≒0

とみなせます。
(v1がマイナスというのは、バッターからピッチャー方向に向かう、ということです)
デッドボールでバッターが吹っ飛んでる映像なんて見ませんね。

ただし、しかしいくらm<<Mといっても頭にぶつける場合は別です。
NPBの公式球の質量はm~0.145kgです。
一方で人間の顔の重さは体重の10%程度とされるので、体重80kgとして8kgです。
すると

v2~0.018v(1+e)

となります。球速を144km/h(40m/s)とするとv2は0.7~1.5m/sぐらいになります。
首がつながってるから吹っ飛ぶことはないにしても、頭は1秒に1メートルぐらいの速さで飛んで行こうとするわけです。
改めて、プロの投手のデッドボールって恐ろしいですね。

反発係数の正体は?

冒頭で、「跳ねたら軽傷、跳ねなかったら重症」と言いました。
ようやくその話ができるところまでたどり着きました。
これまで「殺傷能力」の指標として「運動量」を考えてきましたが、ここでもうひとつの指標「エネルギー」を考えてみます。

もともとのボールがもっていた運動エネルギーは
衝突前の運動エネルギー

です。一方で、バッターに当たって跳ねたボールの運動エネルギーは

衝突後の運動エネルギー

です。(速度が-evなので)
もとの運動エネルギーに反発係数の2乗がかかっています。
これより、「よく跳ねる」状況である「e=1」のとき、もとのボールがもっていた運動エネルギーが、
衝突後もそのまま引き継がれていることになります。
しかしe<1のとき、運動エネルギーが「減っている」ことになります。
その減った分はどこへ行った?

この「エネルギー」についてはまた後日お話しますが、エネルギーは無くなりません。
無くなったように見えるのだとしたら、「他のエネルギー」に変わっているだけです。
今回のデッドボールの場合、他のエネルギーとはバッターの骨や筋肉を破壊・変形させるエネルギーなどに該当します。

もしボールが強く跳ねたのだとしたら、エネルギーがあまり消耗されなかったことを意味しますのでバッターはおそらく軽傷です。
しかしボールがその場に落ちるような状況(つまりe=0)なら、もとの運動エネルギーが他の形で消耗されたことを意味します。
ボールはバッターがもろに食らってますので、エネルギーが消耗された、ということは基本的にバッターの体をなんらかの形で破壊したと考えられます。
だから「ボールがその場に落ちたら重症」で、即担架を持ってこなければならないのです。

教科書などで突然?登場する「反発係数」は、高校の「力学」で直接扱えない複雑な現象(今回だとバッターの破壊。他にも「音」や「熱」など)を押し込めたパラメータになっているのです。

「力がずっと一定」って都合よすぎでは?

ちなみに今回のお話では、ピッチャーがボールを投げる際、そして投げたボールがバッターに当たる際に力はずっと一定、としました。
もちろん現実世界では力の大きさは時々刻々と変わっています
実はそういう複雑な状況でも、今回の「力積」「運動量」「仕事」「エネルギー」の関係は成り立ちます。
(「積分」を駆使する話になります。瞬間瞬間のことを精密足し算する、というノリです)
ですので、「今回は粗い近似をしたけど、現実世界では役に立たないんでしょ?」と思わないでくだされ。

本編は今回で終わりです。
次回、「運動量」「エネルギー」に関するオマケの余計なコメントをいくつかします!


はっぴぃ理系らいふ、いぇい
ヽ(・ε・)人(・ε・)ノ キミモナカマニナロウゼ
   
【文責 べじぱみゅ】